3秒後、きみと恋がはじまる。
「あーあ、桃ちゃん、お人好しだね」
不意に後ろから声をかけられて、驚いて振り返る。
「郁人くん、聞いてたの?」
「聞こえちゃった」
郁人くんは、眉を下げて、仕方ないなって顔をして笑った。
「あんなこと言ったら瀬川ちゃん、ガンガンアピールしに行っちゃうよ。
あの子けっこう腹黒そうだし。
…有村くん取られちゃってもいいの?」
「……よく、ないけど」
「『私の気持ち知ってるくせにひどいよ!』とでも言っておけば、ちょっとは遠慮してくれたかもしれないのに。
そっちの方が桃ちゃんには好都合じゃん」
郁人くんの言っていることは、事実かもしれない。
雪音ちゃんの、「遠慮せずに行くからね」という言葉を思い出す。
私があんな風に笑って返したから、もう私に遠慮することもなく茜くんと近付くことができるんだろう。
それでも、言えるわけ、ない。
「…だって、そんなの、私に言う権利ないもん…」
私がやめてって言って、雪音ちゃんの恋を邪魔する権利なんてない。
茜くんが雪音ちゃんのことを好きになるのを、妨げる権利なんて、ない。