3秒後、きみと恋がはじまる。
気付かなかったふりをして通り過ぎよう。
下を向いて、茜くんを見ないように、その横を通る。
大好きな茜くんの足元だけが見えて、茜くんの匂いがして、雪音ちゃんの楽しそうな笑い声がして。
私の目にはじわりと涙が溜まって。
……そして。
「おはよ」
大好きなきみの足は私の横で突然歩みを止めて、大好きなきみの声が降ってきた。
「、え」
思わず顔を上げると、少し不機嫌な表情の茜くん。
話しかけて、くれた。
茜くんのたったひとことが、泣いてしまうくらい嬉しいなんて、ずるい。
「おはよう」を「う」まで言わないところ、可愛い。
少しぶっきらぼうな言い方が、好き。
私のことこんなに夢中にさせるくせに、振り向いてくれないの、ずるい。
「お、おは……」
おはよう、って、言おうとしたけれど。
「あーっ、バス行っちゃう!
走ろう、有村くん!」
雪音ちゃんの声が、私の「おはよう」をかき消して。
みんながバタバタと走って坂を駆け下りる。
茜くんは、雪音ちゃんに腕を引かれて、行ってしまった。