3秒後、きみと恋がはじまる。




「もう嫌……」



楽しかったのに。
楽しいはずだったのに。


茜くんとは話せないし、それに反比例するように雪音ちゃんは茜くんとの距離を着実に進めている。



今だってきっとふたりは仲良く京都観光を楽しんでいるだろう。


それなのに私、何でひとりで迷子になってるんだろう……ばかみたい……。




じわり、と浮かんだ涙。

知らない人ばかりの街でひとりぼっちって、こんなに心細いんだ…。


とりあえず京都駅に向かおう!
みんなも京都駅に行ってるかもしれないし…!


京都駅は……こっち……?



「おい……おい、桃!」



後ろから、大きな声で名前を呼ばれて。
私も、私の近くにいた人も振り返った。





「茜くん……っ」



きっと走って来てくれたんだろう。

ふわりとした黒髪は、乱れていて。
紺色のカーディガンは、腕まくりして。
呼吸の乱れた茜くん。


いつも余裕のポーカーフェイスだから、こんなに慌てた彼のことを、私は初めて見たかもしれない。





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