3秒後、きみと恋がはじまる。
ぽろ、と、堪えていた涙が頬を伝って。
それを見た茜くんは、珍しく少し慌てていた。
「あー、怖かったな。
もう大丈夫だから駅戻るぞ」
眉を下げて、仕方ないなって顔で笑って。
私の頭をくしゃりと撫でてくれる。
大好きなきみの手が温かくて、安心して、余計に泣いてしまった。
違うの、怖かったけど、そうじゃないの。
だって茜くんが初めて名前を呼んでくれたあの時、ひとりぼっちの私を助けてくれたあの時。
怖さなんて、魔法使いみたいなきみのおかげで、もう吹っ飛んじゃったんだから。
「ごめんね、茜くん…っ」
「ん?」
いつになく優しい声で。
私の目を見て聞いてくれる。
「迷惑かけてばっかりで、ごめんなさい……」
「もう慣れたよ」
久しぶりに、ちゃんと、まっすぐに見た茜くんの目が。
横顔じゃなくて、正面から見た茜くんの目が。
まっすぐに私を捉えたから、それだけで胸がいっぱいになる。
3秒間、目を合わせただけで。
魔法にかかったあの日を、思い出した。