3秒後、きみと恋がはじまる。
「桃ちゃん」
「……あ、雪音ちゃん」
茜くんのクラスを出て、廊下を歩いていると、突然後ろから声をかけられた。
なんだか険しい表情をした雪音ちゃんの表情に、私は少し不安になりながら立ち止まる。
修学旅行のあたりから、私は少し、雪音ちゃんが苦手になってしまっていた。
「有村くん、どうしてあんなに勉強してるのか知ってる?」
茜くんが、どうして勉強するのか。
それはきっと、前に話してくれた。
「将来のため、でしょ?」
茜くんはお医者さんになるから。
医学部は、私には未知の世界すぎてわからないけれど、きっとすごく難しい世界だから。
「なんだ、知ってるの。
それなのに毎日、有村くんのこと邪魔しないほうがいいんじゃない?」
棘のある言い方に、少しひるむ。
雪音ちゃんは、いつも通りの、だけど怖いくらいの優しい表情に戻って。
「有村くんの勉強の邪魔してまでどうでもいい話ばっかりして、迷惑だとか考えないの?」
ズキン、と、心に刺さったその言葉は。
私だって少しは、思っていたけれど。
それでも、どうしてそれを、茜くんじゃない人から言われるんだろう。