3秒後、きみと恋がはじまる。
「……茜、くん」
次の日の放課後。
茜くんのクラスに行くと、珍しく彼は1人で机に向かっていた。
「ああ、また来たの」
「……うん、みんなは?」
「先生のところに質問に行ってる」
「そっか」
ふたりきりの教室に少し緊張しながら、茜くんの前の席の椅子に座った。
茜くんは数学の参考書をパラパラとめくりながら、ノートに長い公式を書いている。
……こんなの、習った記憶すらないや。
「茜くんは、さ」
茜くんは、なにも言わずに、でも目だけ私の方に向ける。
聞いてくれるんだ、優しいなぁ。
「どうしてお医者さんになりたいの?」
私が聞いたら、茜くんは、少し目を見張って。
それから、ああ、と呟いて目をそらした。
その表情は、なんだか寂しげだった。
「……そっか、覚えてないんだっけ」
「え?」
「何でだろうね。当ててみれば」
意地悪に、口角を少し上げて笑う。
その顔すらも格好よくて、ずるい。