3秒後、きみと恋がはじまる。
「ええ……わかんないよ」
「じゃあ教えない」
茜くんはまたノートに目線を落として、さらさらと数式の続きを書き込んでいく。
細くて長い指が、右上がりのスマートな字が、綺麗で見とれてしまう。
大人っぽくて綺麗な字が、茜くんみたいだと思った。
「お医者さんになるのって、大変なんだよね」
「まあ、そうだね。
医学部に受かるのがまず大変だし」
「…茜くん、頑張ってるんだね」
「頑張らないとなれないからな」
将来の夢が、具体的に決まっていて。
それに向かって、まっすぐに努力している。
そんな彼が、眩しくて、遠くて、憧れで。
私はそんな茜くんを、邪魔をしたいわけじゃない。
「そっか、頑張ってね。
……邪魔して、ごめんね」
立ち上がって、鞄を肩にかけて、にっこり笑う。
笑ってみせたら、少し泣きそうになってしまった。