3秒後、きみと恋がはじまる。



「今日は帰るの早いな」


「うん、お邪魔しました」

「はいはい」



ふ、と笑う、その横顔が。
ひらりと振った、手が。


全部全部愛おしくて、ぎゅっと思いっきり抱きついてしまいたくて。


本当は、今すぐにでも、「好き」って伝えてしまいたくて。



…だけど、でも。


私は笑顔で手を振り返して、教室を出た。

もう一度振り返った時には、彼はもう机に向かっている。





「……好き」




聞こえないくらい小さな声。
呟いた二文字は、彼には届かない。




大好きなきみの、大切な夢を。
邪魔するなんて、できない。


雪音ちゃんの言う通り、私のくだらない話を聞いているより、クラスのみんなと喋ったほうが楽しいだろう。

勉強に集中もできるだろう。



茜くんがお医者さんになったら、いよいよもう私には手の届かない存在になって。

そういえば、毎日話しかけに来る面倒な女がいたな、なんて、高校時代の思い出の1ページになって。


……それでいいのかも、しれない。



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