3秒後、きみと恋がはじまる。




「…で、桃は何で塾の前にいたの」




すぐに、いつも通りのぶっきらぼうな茜くんに戻ってしまった。
私は、机の上に置いてある、ケーキの箱をちらりと見る。


箱に入れて、さらにビニール袋に入っていたから、濡れてはいないはずだけれど。


あれだけ走ってしまったから、きっと中身はぐちゃぐちゃになってしまっているはずだ。

そんなケーキを、茜くんにあげるわけにはいかない。



だけど茜くんもきっと、不自然に大きな箱の中身は気になっているのだろう。




「……ケーキ、渡したくて」





観念して小さな声でつぶやいたら、茜くんが「ケーキ?」と復唱した。



そうだよね、デタラメの誕生日なんだから、覚えてなくて当たり前だし。
そんな日にケーキなんて持ってこられても、迷惑だよね。





「茜くんが、誕生日、今日だって言ったから…

嘘の誕生日だって、わかってるけど、でも、渡したくて…」





崩れちゃったと思うけど、と付け加えた私の言葉を無視して、茜くんはケーキの箱を開けた。






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