3秒後、きみと恋がはじまる。
「…バカな女嫌いだから」
背を向けてからそう言った彼の方を振り返ったら、もうその背中しか見えなくて。
だけどその背中にすら胸がキュンキュンと疼くんだから、もうどうしたらいいのか分からない。
きっと彼は、魔法使いなんだ。
たった3秒で、魔法が使えるんだ。
私の心を彼で支配して、私の世界をキラキラに変える。
そんな、恋の魔法が。
「…バカな女、嫌いなのか」
私ってバカな女かな。
そう思って記憶を辿れば、前回の期末テストは赤点で追試を受けたことを思い出した。
…有村くん、私が勉強できないこと知ってるのかな。
だけど手元のノートには 『普通科 2年C組 三好 桃』の文字。
少なくとも普通科だということはバレてしまったかもしれない。
…どうしよう。
でも、もう、有村くんのこと、すごく知りたくなってしまった。
ノートを拾ってくれただけなのに。
たった3秒間、目が合っただけなのに。
ばかみたいだけれど、きみの魔法に、掛かってしまった。