3秒後、きみと恋がはじまる。
「…有村のこと?」
「あはは、私なんかが茜くんに釣り合うわけ、ないのにね…」
そんなことは、百も承知で。
それでも好きになってしまったんだから、仕方ないんだけれど。
「じゃあ、俺にしちゃう?」
にっこり、綺麗な顔で笑うから。
少しドキッとしちゃったじゃないか。
「もう、びっくりさせないで」
郁人くんは女の子の扱いがうまいから、こんなこと、誰にだって言ってるんだろう。
「桃ちゃん可愛いし、特に今日のメイクは大人っぽくて好きだよ」
じりじりと詰め寄られて、同じようにじわりじわりと後ずさる。
さらり、と私の髪を優しく撫でる郁人くん。
ふわりと彼の甘い香水の香りが鼻を掠めた。
「ま、待って郁人く…」
瞬間。グイ、と引かれた腕に、体勢を崩した私は、誰かの胸に倒れこんだ。
「っ、わ」
とん、と触れた硬い胸板。
ふわりと優しい、柔軟剤の香り。
「茜、くん」
私の腕を引いたのは、いつになく不機嫌に眉をひそめた、茜くんだったらしい。