【完】無自覚な誘惑。〜俺だけを見てよ、センパイ〜
母親のことがあって、女が嫌いだった俺を、花染静香は最も簡単に奈落の底へ墜としたんだ。
それなのに、彼女の噂を聞いて、裏切られたのだと勝手に被害者ぶっていた。
勝手に惚れて勝手に優しい人だなんて幻想を抱いて、勝手に逆恨みして……
最低なのは、俺の方。
彼女の傷ついた顔が、頭に焼き付いて離れない。
あの表情すら計算なのかもしれないが、どうしてもそうは思えなかった。
今にも泣きそうな、顔をしていたから。
くそ……。
結局、振り回されてんじゃん、俺……。
「和泉!!」
背後から名前を呼ばれて、慌てて振り返る。
「佐倉先輩……」
そこには、呆れた様子で俺を見つめるサッカー部のキャプテンがいた。
「やっと見つけた……お前、何回も連絡してしてんのに何してんの……」
連絡……?
ポケットのスマホを取り出すと、凄い数の通知が入っていた。
「あ、すみません、気付きませんでした……」
「まあ見つかったしいいや。今から合宿について話し合うことになったから、部室行くぞ。もうみんな集まってるから」
「はい」