【完】無自覚な誘惑。〜俺だけを見てよ、センパイ〜
ぶつかったままの視線。
私を見つめる和泉くんの視線に、いつも込められている憎悪が見当たらず、さらに混乱してしまう。
どうしてそんな……寂しそうな、懇願するような瞳で、私を見る、の?
「……ま、って……」
瞳と同じ、寂しそうな、掠れた声が私に投げられた。
「まだ……行かないで、ください……」
苦しそうに息をしながら紡がれる声に、私が逆らえるはずがない。
どんな意図があって、私を引き留めたのかはわからないけれど、私はそっと頷いて、和泉くんの横に座った。
ど、どうしたん、だろう……何か頼み事でも、あるのかな……?
暖房付けてとか、誰か呼んできて、とか……
そんな理由がない限り、私を引き留めるなんてありえないだろう。
心臓が、異常なほど早く脈を打っている。