【完】無自覚な誘惑。〜俺だけを見てよ、センパイ〜
出て行った方が、いいんじゃ……
そう思い、口を開こうとした時、
「……ありがとう、ございます……」
自分に向けられるはずのない言葉が聞こえ、私は大きく目を見開かせた。
「え?」
ありがとう、って……な、に?
「助けて、くれて……感謝、してます……」
ぶっきらぼうな言い方だったけれど、私にはなんだか、とても気持ちが込められているように感じた。
感謝されたくてした訳ではなかったけれど、和泉くんが私に、嫌悪以外の感情を向けてくれるのがただただ嬉しかった。
私……ほんと、和泉くんのことになると、気持ち悪い……
今も、気を緩めたら、泣いちゃいそうで……
「い、いえっ……ここまで運んでくれたのは、健太くんです……!」
涙を必死に堪え、首を振った。