【完】無自覚な誘惑。〜俺だけを見てよ、センパイ〜


出て行った方が、いいんじゃ……


そう思い、口を開こうとした時、



「……ありがとう、ございます……」



自分に向けられるはずのない言葉が聞こえ、私は大きく目を見開かせた。



「え?」



ありがとう、って……な、に?



「助けて、くれて……感謝、してます……」



ぶっきらぼうな言い方だったけれど、私にはなんだか、とても気持ちが込められているように感じた。


感謝されたくてした訳ではなかったけれど、和泉くんが私に、嫌悪以外の感情を向けてくれるのがただただ嬉しかった。


私……ほんと、和泉くんのことになると、気持ち悪い……

今も、気を緩めたら、泣いちゃいそうで……



「い、いえっ……ここまで運んでくれたのは、健太くんです……!」



涙を必死に堪え、首を振った。

< 211 / 507 >

この作品をシェア

pagetop