【完】無自覚な誘惑。〜俺だけを見てよ、センパイ〜
一瞬、聞き間違いかと思った。
今、和泉くんって言った……?
「……あ、でも二人に言われたから謝りに来たんじゃないよ!?」
ケンくんが話を続けているけど、前のセリフが気になって内容が入ってこない。
「あの……和泉くんって……?」
きっと聞き間違いだ。そうに違いないと思いながらも、それを肯定してもらいたくて聞き返した。
何言ってるの?そんなこと言ってないよ?って言葉が返ってくると思ったのに……
「……あれ?聞いてない?」
「何を、ですか……?」
「いや、あの場に和泉と佐倉先輩がいたみたいで……佐倉先輩はすぐに静香ちゃん追いかけて行っちゃったんだけど……」
ケンくんの言葉に、今度こそ確信した。
「和泉が、すっげー怖い顔で俺らのところに来て、『理由があったとしても浮気するやつは最低だ』『あの人に謝れ』って……後輩のくせに、威圧感が凄くて……ちょっと怖かったよ」
昨日のことを思い出した。
『……静香先輩……泣いてたんで……』
あれは……偶然居合わせたんじゃなくて……
——私を、心配して来てくれたってこと……?