【完】無自覚な誘惑。〜俺だけを見てよ、センパイ〜
静香先輩はそれ以来一度も、俺の部屋に来てくれなかった。
朝の8時になった頃、部屋の扉が開いた。
静香先輩……?
そう思って、重たい体で寝返りを打つ。
俺の視界に映ったのは、待ち望んでいた人ではなかった。
「し、失礼しまーす……」
少し浮かれたような声でそう言って、部屋に入ってきたマネージャー3人。
俺は残り少ない体力を、もう一度寝返りをすることに使った。
こいつらの顔なんか、見たくない。
よりにもよって、俺にベタついてくる奴らだし……。
「い、和泉くん、体調平気……?」
「少しはマシになった?」
「みんな心配してたよ……!」
口々にそう聞いてくるマネージャーたちに、返事を返すのも面倒。
そう無視を決め込んだ俺の鼻腔を、良い匂いが掠めた。
昨日嗅いだことのある、その匂い。