【完】無自覚な誘惑。〜俺だけを見てよ、センパイ〜
佐倉先輩も見張りのためと付いてくるから、逃げられない。
くそ……もう大丈夫だっつってんのに。
俺は早く、部活に出たいんだよ。
それに……
——静香先輩に、直接聞きたい。
どうしても、昨日来てくれなかった理由を聞きたかった。
嫌われているのだとしても、本人の口から聞くまでは納得できなかったから。
どうしてこの人にここまで執着しているんだと思いながらも、静香先輩のことが頭から離れなかった。
「それにしても、花染さん来てくれてよかったなぁ〜」
部屋に戻る途中、そんな声が聞こえた。
そのすぐ後に、リナ先輩の文句が聞こえてきて、俺も佐倉先輩も足を止める。
どうやら愚痴を言っているのは一個上の先輩らしい。レギュラーじゃないからあんま憶えてないけど、その人はクソみたいなことを自慢げに語っていた。
浮気したって堂々と言えるなんて、どんな神経してるんだか。
俺にはわからない。わかりたくもないけど。
「キャプテン……早く戻りましょ……」
こんなやつらと関わりたくない。
そう思い、足を踏み出そうとした時、
「……っ、え?」
「花染、さん?」
その名前が耳に入って、俺は再び足を止めた。
静香先輩……?
覗くように声がした方を見ると、そこには、初めて見る表情をした静香先輩の姿があった。
この顔……怒ってるのか?
少しだけ驚いた。
怒ることなんてあるのかと思うほど、穏やかな人だから。