【完】無自覚な誘惑。〜俺だけを見てよ、センパイ〜
その言葉は、俺を心配しているものではないとすぐにわかった。
静香先輩とふたりになるための口実。
でも……その手にはもう乗ってやらない。
昨日は大人しく引き下がったけど、この人と静香先輩を、みすみすふたりきりになんてさせてたまるか。
「佐倉先輩も、キャプテンならグラウンドから離れない方がいいんじゃないですか?」
俺の言葉に、一瞬佐倉先輩は眉を顰めた。
「……そうだね」
けど、すぐにいつもの笑顔に戻る。
「俺も行くよ。静香ちゃん、今日はゆっくり休んでね?また来るから」
「あ……はい、ありがとうございます」
「バイバイ。……和泉、行こ」
「いや、俺は……」
保健医に頼まれてるんで、と言おうと思った時、タイミング悪く保健医が戻ってきた。
まだ話したいことはあったが、俺が居座る理由もなくなり、おとなしく退出する。
まあ、佐倉先輩を道連れにできたからいいか……。
静香先輩にぺこりと頭を下げ、部屋を出た。