【完】無自覚な誘惑。〜俺だけを見てよ、センパイ〜
「お前はもう平気なの?」
グラウンドに戻る途中。
佐倉先輩の質問に、嫌味を混ぜて答える、
「はい、おかげさまで」
言ってすぐ、こういうとこころが、俺はまだ子供なんだろうなと思った。
年齢の差はでかい。
静香先輩にとって、俺は年下で佐倉先輩は年上。
その時点で、すでに負けている気がするほど、1歳の差というのはとてつもなくでかいものに感じた。
「ねぇ」
俺が返事をするよりも先に、佐倉先輩は言葉を続けた。
「静香ちゃんに、あんまり近づかないで欲しいんだよね」
……は?
「前も言いましたけど……佐倉先輩にそんなこと言われる筋合い、ないですよね」
この人が静香先輩を好きなのはもう十二分にわかっているけど、だからと言って関係はただの先輩と後輩。
佐倉先輩がそんなふうに、牽制する権利なんて——
「あるよ」
俺は、ピタリと足を止めた。