【完】無自覚な誘惑。〜俺だけを見てよ、センパイ〜
——パタン。
室内に残った、あっけなく閉まった扉の音。
私は扉の方を見たまま、下唇をきゅっと噛み締めた。
「……だって。ひどい男だね」
……ち、がう……。
和泉くんは、ひどくなんてない……。
誤解、されちゃった……。
私の、ファーストキス……佐倉先輩に……っ。
ようやく理解して、じわりと涙が滲む。
糸が切れたように、涙は止まらなくなって、ポロポロと溢れ出した。
「ねえ、俺にしなよ」
いつも以上に優しい声で言ってくる佐倉先輩が、今はなんだか怖い人に見えた。
「俺、あんなひどいこと言わないよ。静香ちゃんのこと、傷つけたりしないって約束する」
涙を拭ってくれようとしたのか、触れた指にびくっと身体が震えてしまう。
どうして、こうなっちゃったんだろう……っ。