【完】無自覚な誘惑。〜俺だけを見てよ、センパイ〜



「待ってくださいってば」



それなのに、和泉くんが許してくれない。再び手を掴まれ、身動きが取れなくなってしまった。



「お願いです、行かないでください」



掴まれた手を、ぐいっと引かれる。

そのまま……私はまた、和泉くんに抱きしめられた。



「俺、あなたとちゃんと話したいです」



……っ。


大好きな人の胸の中で、頭が真っ白になる。


や、めて……。

こんなことをされたら、私は……っ。



もっともっと、好きになってしまう。


もう……忘れられなくなってしまう……っ。



「す、すみません、ごめん、なさい……」



和泉くんの胸を押して、距離を取る。



「なんの謝罪ですか?」



もう、自分でもわからないっ……。

理由が、ありすぎて……。



「……好きに、なって……もうフラれているのに、しつこくて、ごめんなさいっ……」



涙が止まらなくて、振り絞った声は情けないくらい震えていた。
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