【完】無自覚な誘惑。〜俺だけを見てよ、センパイ〜


もう、ここから消えてしまいたい。

和泉くんにこんなぐちゃぐちゃな顔……見られたく、ないっ……。



「……は?」



教室の内に響いた、困惑を含んだ声。



「すみません、話が全く見えません」



和泉くんは困ったようにそう言って、私の肩を掴んだ。

視線を合わせようとしてるのか、顔を覗き込んでくる。


私は涙をごしごしと服で拭って、さっと前髪を整えた。


こんな状況だけど、和泉くんの瞳に映る自分は、少しでも綺麗でいたかったから……。



「静香先輩の好きな人って、本当に俺なんですか?」



確認するように問い詰められ、私はごまかしても無駄だと諦めるように頷いた。

もう、言い逃れることもできない。



「……え……まじで待ってください。フラれたってなんのことですか?」



なぜかひどく困惑している和泉くんに、私のほうが疑問に思う。



「和泉くん、一度図書室で……私みたいな軽い女、嫌いだって……」



思い出すだけで苦しくなって、また溢れそうになる。今日はもう、涙腺がおかしくなっちゃってるのかもしれない。

すぐにぐっと下唇を噛んで、涙をこらえた。


和泉くんは、私の返事に思い出したようにハッとした表情になる。

そして、苦しそうに顔を歪めた。

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