【完】無自覚な誘惑。〜俺だけを見てよ、センパイ〜
顔を上げると、前に立つ佐倉先輩が目に入る。
「あれ?静香ちゃん立ったままじゃん。あの席空いてるから、座りなよ」
……っ。
佐倉先輩は、和泉くんの隣を指差して、そう言った。
和泉くんの表情は、前を見ているから見えないけれど、きっと嫌がっているに違いない。
「あの……」
「ん?そんな後ろじゃ聞きにくいでしょ?」
「……は、はい……」
変に断ったら、佐倉先輩に心配かけちゃう……それに、和泉くんも、私と何かあったのかとか誤解されたくないだろうな……。
恐る恐る、席へ向かう。
ちらりと和泉くんを見ると、頰に手を付きながら、無表情で前を見ていた。
私のことなんて、気にしていない様子で。
それに、少しだけホッとする。