【完】無自覚な誘惑。〜俺だけを見てよ、センパイ〜
どうしよう、どうしようっ……このまま何も言わずに帰るのも、愛想ない、かな……?
でも、喋りかけて鬱陶しいと思われるのも、怖い……
ドキドキを遠に通り越し、バクバクと騒ぎ立てている心臓。
……よ、よし。
挨拶だけ……しようっ。
さよなら、って……それだけ、言おう。
「あの、和泉くんっ……」
顔が見れなくて、目を瞑ったまま口を開けた。
さようならって、言え、私……っ。
膝の上で、両手を握りしめた時だった。
「退いてくれません?」
和泉くんの鬱陶しそうな声が、聞こえたのは。
……え?
慌てて顔を上げると、すでに鞄を持ち、教室から出て行きたいらしい和泉くんの姿。
通路が狭くて、私が椅子を引かないと通れないらしい。
私を見下ろすその瞳は、ゾッとするほど冷たいものだった。