【完】無自覚な誘惑。〜俺だけを見てよ、センパイ〜
……私、何を悩んでいたんだろう。
話し掛けようなんて、そんな……身の程知らずなこと……
あんなにもはっきりと、分かりやすく、体現されているのに。
和泉くんの全身が、私を拒否しているみたいだった。
さっき少し話せたのは、きっと夢に違いない。
少しずつ、人が減っていく視聴覚室。
私は動けなくて、座ったまま服の裾をぎゅっと、シワができるくらい強く握りしめていた。
そうしないと、涙が溢れてしまいそうだったから。
諦めるって決めた時、ちゃんときっぱり諦めていたらよかったんだ。
結局少しも忘れられなくて、一人でドキドキして、本当に、自分が惨めすぎる。
こんなに胸が苦しいのは、私が勝手に和泉くんを、好きになってしまったせい。