嘘の続きは
お相手なんて
そんなものここ数年いたことないけど。

確かにちょっとはいた。就職した年と昨年に少しの間だけお付き合いをした男はいたけど、真紀だって知らないんだから果菜ちゃんが知っているはずがない。

あるとすれば真島さんのことだけど。
キスされたことは誰にも言っていないし、彼だって言わないだろう。

考え込んでいると、「ジンギスカン食べてる時に言ってたでしょ」と様子を窺うような目をされる。
ジンギスカンって例の北海道旅行か。あれ、何か言ったかな。

「んー。気になる人がいるってーーー」
焦れたように果菜ちゃんが言い出した。

あぁー、言ったかも。そういえば、そんなこと言ったかもしれない。

「--それがなんで、椎茸???」

「だって、朋花さん取り皿に残ってた椎茸をお箸でつつきまわしたり、突き刺したり転がしたり散々もてあそびながらその気になる人の話をしてたから。
真紀さんだけじゃなくて朋花さんもいつもテーブルマナーと言うか箸使いがすごく綺麗で見とれちゃうくらいなのに、その時だけなぜか違ったから余計に気になっちゃって印象に残ってたの。
それで、お相手を”椎茸さん”と命名させていただきました」

わぁお。
そんなお行儀の悪いとこを記憶されていたとは。

おまけに果菜さんの独特なネーミングセンス。
それ、どうなの。

タカトと果菜さんの子どもの名前はタカトが付けた方がいいと思う。うん。

真島さん、果菜さんに『椎茸さん』って呼ばれてるとは思ってもみないだろうな。
似ても似つかないけど、あのいつも冷静な真島さんの表情と椎茸を思い浮かべてぷっと笑ってしまった。
< 105 / 163 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop