嘘の続きは
相手にしちゃダメ。
私は真紀の影武者になるためにここに来たんだ。

業界内には私のことを知っている人たちもいるのだから私の姿を見つかってはいけない。なるべく目立たないようにひっそりとやって来た。だからここで騒ぐわけにはいかないのだ。

ここで私ができることはこのオトコを無視することだ、奥歯を噛みしめて改めて室内を見回した。

かなり大きな控室。
6人掛けの白いテーブルにパイプ椅子。壁際にロッカーとブラインドの下ろされた窓辺には3人掛けのソファーセット。
ロッカーと反対側の壁際には大きな鏡がありずらっとメイクセットが並んでいる。

奥には二畳ほどの畳が敷いてある。その周りをぐるっとカーテンをひくと着替えスペースになるようだった。

数年前の私が出入りしていた当時に与えられていた真紀の控室は6畳ほどの和室で、やけに大きな鏡があるなという印象だった。

それでも当時から個室を与えられていた真紀はかなりの好待遇だと思っていたけれど今のこの部屋とは比較にならない。
それだけ女優秋野真紀は大物になったということなんだろう。



「朋花ちゃん」

親しげに呼ばれ目を向けると控え室の奥には姉の真紀を5年ほど前まで担当していたヘアメイクの田所あすみさんがいた。

「この時間、この辺りには誰もいないから安心して話をするといい」

周囲を警戒していた私の気持ちを見透かしたようなオトコの言葉にもまたムッとする。
確かに廊下を誰かが通りがかって話し声が聞かれていたらと気になってはいたのだけれど。

「田所さん、ご無沙汰してます。今日お子さんは?」
彼の存在無視するように田所さんに挨拶をした。
久しぶりに会った昔の知り合いに思わず顔の緊張も緩んでしまう。

「本当に久しぶり。ずいぶんとキレイになったわね」

ライトブラウンのくるくるふわふわヘアを1つに束ねた田所さんは相変わらず可愛らしく、会うのは5年ぶりだというのにあの頃と全く変わらないような気がする。

私のことを中学生の頃から知っている彼女から見てもうすぐ26才になろうとしている私は大人になったように見えるだろうか。
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