嘘の続きは
もう忘れたいのにな。

神様は意地悪だ。
いくら私でも彼の顔を見なければ少しずつ心が離れるはず。
そしてそのうちにいつか新しい出会いがあって、新しい恋ができればいいって思ってる。
それなのにー。

「朋花も元気そうで安心したよ」

私にかけられた真島さんの声にハッとして顔を上げた。
私がぼーっと自分の心の中に引きこもっているうちにいつの間にか果菜ちゃんは真島さんとの会話を終えていたらしい。

「先日は大変なご迷惑をお掛けしてしまい、本当に申し訳ございませんでした」
大企業の顔である受付嬢をしてはや5年。有名女優の妹歴15年。ぎゅっと身体を引き締めて、完璧な大人の謝罪をしてみせた。

「うわぁ」と小さく感心したような呆れたような果菜ちゃんの声が聞こえたけれど、とりあえずスルーしておく。

私はどうしてもこの人の前ではまた仮面をつけてしまう。
もう昔のように無防備な自分をさらけ出すことができない。
この人にまた傷つけられたくないと思ってしまう。

「あれから大丈夫だった?真紀からは問題ないと聞いているけれど、全く問題ないわけじゃなかっただろ?あれだけ騒ぎになったのだし」

目の前の真島さんは珍しく砕けた口調で表情も穏やか。怒っている様子はない。--多分。

「いいえ、私の方は対応に困るような大した問題はありませんでしたので大丈夫です。それよりもーーー」姉の夫の西さんを含めた関係者に迷惑がと言いかけた私を
「こっちも西さんの事務所も全く問題なかったよ」
と強めの口調で遮られた。

しかも、真島さんの顔がちょっと怖い。

やっぱり怒ってる。

さっきまでもっと穏やかな顔だったのに。
いや、あれは果菜ちゃんへの配慮だったんだろう。タカトの奥さんである果菜ちゃんの前で私にきついことを言うのを我慢していたんじゃないだろうか。
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