嘘の続きは
「ええ。もちろん。朋花ちゃんもどうぞ」
真島さんが立ち上がり、私に営業スマイルを向けた。朋花ちゃんだって。

うそくさい営業スマイルに胸がちくりと痛む。

「大丈夫です。私、電車で帰りますから。まだ時間も早いし」

「ダメよ。何かあったら困るから」

強い果菜ちゃんの反対に遭いタカトからは「秋野さん。諦めて乗った方が良いよ」言われてしまうし。

そうして果菜ちゃんたちの乗る真島さんの車にずるずると連行されてしまった。

助手席のドアは真島さんの手で開けられ、座るように目で促される。

確かに後部座席のラブラブカップルと一緒に座るのも変だし、必然的に空いているのは助手席なわけですが。
運転する真島さんの隣というポジションがどうにも居心地が悪い。

後部座席のドアはタカトによって開けられタカトのエスコートで既に果菜ちゃんが乗り込み隣にタカトも乗ろうとしていた。

「さあどうぞ」早く乗れというように真島さんに促されて仕方なく「お願いします」とシートに腰を下ろしたのだった。

今日の車が車内が見えにくいフィルムの貼られたようなワゴン車じゃなくて普通の高級乗用車だったのは予想外で、どうやらタカトと果菜ちゃんに関して隠れたり隠したりという意図はないらしい。

「果菜、沖縄料理美味かったか?」
「うん。特にモズクの天ぷらとグルクンが美味しかった。貴くんはちゃんと食べた?お酒ばっかり飲んでなかった?」

後部座席から新婚夫婦の会話が聞こえてくる。

「ツマミくらいは食ったよ」
「ちゃんと食べないと。身体が資本なんだから。帰ったら何か作ろうか」
「そうだな、果菜の作った鯛茶漬けなら食えるかも」
「わかった。帰ったらすぐ作るから貴くん先にシャワー浴びてね」
「いや、シャワーは果菜が先でいい」

ああ、もう。
耳に入って来るこの会話も何だかくすぐったいんだけど。

それでも、二人がいるから真島さんと会話をしなくて済んでいるはずでーーー。

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