嘘の続きは
雨音とワイパーの音、エンジン音に混じって隣からため息が聞こえた。

機嫌、やっぱり悪いよね。
聞こえてきたため息に更に身体を縮める。

ただでさえ気まずいのに、その上渋滞だなんて勘弁して欲しい。

早く車を降りてしまいたい。

そういえば真島さんの住んでる所ってどこなんだろう。

私が知っているあの場所にまだ住んでいるんだろうか。
それとも、今や専務さんなんだから高級なタワーマンションとかに住んでいるんだろうか。

私を送ると遠回りなんじゃないのかな。この近くの駅で降りてしまおうか。

どうしようと考え込んでしまう。

「朋花」

不意に呼び捨てられたことに驚いて顔を上げると、真島さんが私を見つめていた。

あまりにも真っ直ぐに見つめられていて声を出せない。

「朋花」

もう一度呼ばれてやっと「はい」と返事ができた。

「今さら駅で降ろせとか言い出すなよ。お前は最後まで付き合え」

「あ、はい」

強引な口調に流されるように肯定の返事をしてしまったけれど、どうやら真島さんの中には二種類の男がいるらしい。
あの頃の真島さんは”朋花ちゃん”と優しく話しかけてくれる人だった。
このぶっきらぼうな言い方が別に嫌というわけじゃないけど、以前はこんな高圧的な言い方をする人じゃなかったなと思っただけ。

私にとって優しいお兄さんだったのだけれど。
重役になって変わってしまったのか、私は丁寧に接する価値がない人間だと思われているせいなのか。
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