嘘の続きは
どうやらこの先で事故があったらしくなかなか渋滞を抜け出せずにいた。

「朋花、眠ければ寝てもいい」
「いいえ。そんな失礼なことしません」

こんな遅い時間に送らせておいて眠るだなんてそんなことしない。
絶対に寝ないと言うと真島さんは表情を緩めてカーステレオに手を伸ばした。

「これ・・・」
車内に流れてきたのは驚くことに私の好きなピアノ二ストが奏でる最新アルバムの音色だった。

私が好きだと言ったことをこの人は覚えていてくれたのか。

「鍵盤の貴公子」と呼ばれクラシック音楽だけでなくコマーシャルソングや映画音楽の作曲演奏も手掛け、まだ30代ながらマルチな才能でしかもイケメンのピアニスト。

私の17才の誕生日に私が大ファンだと知った真島さんがサイン入りCDをプレゼントしてくれたのだ。
ご丁寧に”朋花さんへ”と名前まで入っていたから彼がわざわざ手に入れてくれたんだということがわかる。

この選曲って私のため?
いやいやまさかそんなこと。

きっかけが私だったとしても真島さんも彼を気に入っただけだと思うけど。だからといって何をどう言っていいのかわからず、真島さんも無言だし、私も黙って透き通るようなピアノの旋律に耳を傾けた。


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