嘘の続きは

「朋花はあと10分後に出発ね。しっかりやってよ」

カーテンの向こうから女王陛下の指示が飛んでくる。

「はいはい」鈴木さんと田所さんと顔を見合わせ肩をすくめた。


きっかり10分後、私は大きく息を吸って背筋をのばした。
私は大きなマスクに深めの帽子をかぶり『女優秋野真紀』として事務所のスタッフに付き添われ控室を出てスタジオの地下駐車場に向かう。

誤算だったのは運転手がマネージャーではなく事務所の専務であるあのオトコだってことだ。

今日の真紀の出番は終わったけれど、まだ他のシーンの撮影が続いていたため控室前の廊下には人影がほとんどなく、幸いにも全く人目に付かず駐車場に移動することができた。

付き添ってきた鈴木さんは車に乗り込まず
「お疲れさまでしたー。明日は11時に迎えの車を回しますからゆっくりと休んでください」
と言って車のドアを閉め、窓の向こうから手を振っている。

てっきり鈴木さんが同乗するのだと思っていた。
その方が本物の真紀っぽいから。

車が首都高に入ったところで思い切ってハンドルを握るオトコに声をかけた。

「どうして運転手が所属事務所の専務さんなんですか」

「真紀のマネージャーを辞めた今でも現場に顔を出した時には真紀の送迎をする日もあるさ。君が知らないだけで別に珍しい事じゃない」

「真紀の方には誰が?」

「真紀はスタッフに変装して紛れてスタジオから出る。ヘタに付き添いなどいたらその方がおかしいだろう」

ぶっきらぼうに返されれば「そうですか」と言うしかなかった。
鈴木さんが真紀の付き添いをしないのならこちらに来てくれればよかったのに。

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