嘘の続きは
・・・車内ではこの不機嫌なオトコと二人きり。

運転席と後部座席とに離れてはいるものの車の走行音だけの無言の空間は息苦しささえ感じる。

こんな状況は想定していなかった。
真紀は大丈夫だろうか。
無事に西隼人と合流できただろうか。
私は上手くやれているだろうか。

真紀に次回影武者を演じる時はこの人に送ってもらうのは嫌だと伝えておかなくちゃ。
私は固く心に誓った。


真紀の自宅マンションが近付き、苦行のようなドライブがやっと終わると思った時だった。

「仕事はどうだ」

唐突に運転席から声がした。

「え…?」

「アクロスコーポレーションの受付にいるんだろう?」

「ーーそうだけど」

この人が私の勤め先や所属を知っているとは驚きだ。
もちろん真紀が教えたんだろうけど。そういえば、女優の家族の動向を知ることも職務の一貫なのだろう。

「何か困ったことはないか」

オトコの問いかけに一瞬何を言われているのかわからなかった。

困ったこと?
困ったことって何だろう。私が何か真紀の邪魔になるようなことをしている?
最近は芸能記者に突撃取材されることも年を取ったせいかモデル事務所からのスカウトもない。

「別に、私は何も問題は起こしてないと思うけど?
心配しなくても真紀に迷惑はかけないように普段から気を付けているから大丈夫です。もし真紀絡みの何かがあればきちんと鈴木マネに連絡しますから」

「いや、真紀のことじゃなくて」

イラついたような声が戻ってきた。
真紀のことじゃなかったら何だというの。

「だとしたら別に何も」
抑揚なく返事をすれば
「ならいい」・・・こちらも抑揚ない返事が返ってきた。
< 17 / 163 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop