嘘の続きは
結局、マンション駐車場に着いても苦行は終わらず、それは玄関前まで続いたのだった。
駐車場で解散、したかったな。

車から降りた私にあの男がぴったりと背後につける。

真紀のようにピンと背筋を張り足先にまで意識しながら気を付けて歩きだした。歩き方は人それぞれくせのようなものがあり印象が変わってしまう。だから姿かたちを似せただけではダメなのだ。

マンションのエントランスをくぐり抜けエレベーターに乗って部屋に向かう。
見たところここまではマスコミの姿は見えないけれど、油断はできない。

やっとのことで玄関ドアにたどり着くと
「お疲れ様。真紀」
私がカギを開けると同時に背後からあの男の声がした。

「ええ」
振り返りもせず真紀らしく返事をしてドアを開ける。
男は
「戸締りをしっかりして早く休めよ」
そう言って踵を返し帰っていった。

遠ざかる靴音に私は玄関のドアを閉め施錠をすると、急に足が震えだしてその場にへたり込んでしまった。

ーーー疲れた。
とてつもない疲労感に襲われている。

影武者の初仕事ということで今朝からずっと緊張していた。現場に入るとあのオトコのせいでさらにピリピリした。

マスコミにだけでなくあのオトコに対してもずっと気持ちを切らすことなく緊張状態でいて、メイクが終わったあたりからは胃がキリキリと痛くなっていたほど。

私が可愛くない態度をとってしまっていることはわかっている。

でも、これは自己防衛反応で自分でも仕方ない。
本当にもう会いたくなかったんだもの。

あの時、思い切って告白をしたら全力で冷たく拒否された。傷ついて泣いた。

もう恋をするのが怖くなった。そんな相手に3年振りに会ってどう接したらいいのかわからなかった。
もう会いたくなかった。会うのが怖かった。

どんな距離でいたらいいのかなんてわからない。


あれから3年、いやもうすぐ4年になる。

思い出したくない。
私は目を閉じた。



< 18 / 163 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop