嘘の続きは
「真紀!どうした、大丈夫か」
どんどんっと玄関のドアが叩かれた。

さほど大きな音はしなかったはずなのに・・・ついてない。
運悪く花瓶の割れる音を聞かれてしまったらしくあの男の焦った声がした。

まずい、やらかした。

大きく息を吐いて渋々と玄関ドアに顔を寄せた。もちろん、ドアは開けないままで。

「ちょっとよろけて花瓶を割ってしまったの。心配ないから帰っていいわ」

「いや、ちょっとここを開けろ。中の様子を確認したい」

「大丈夫。いいから帰って」

「だめだ。確認しないと帰れない。中で何かあったかもしれないじゃないか。中に不審者がいて脅されている可能性がないわけじゃない。わかるだろ」

あなたの顔を見たくないから帰って欲しい
そう言いたかったけれど、そんなこと言えるはずもなく・・・。
オトコは義務感と真紀に対する心配とでここを開けろと言っている。

開けなければずっと騒ぎ続けそうな気配を感じて私は渋々ドアを開けた。

「ケガはないか」
床に倒れている花瓶をちらりと見ると、私の顔や腕、足など肌が出ているところを目で探っている。

花瓶も大きな音を立てた割には砕け散ったわけではなくて、ぱかんと4つに割れた状態になっているだけだ。

「何の問題もないわ」
真紀の口調をまねてそう言えば、
「そうか。良かった。撮影に支障が出ると困るから気をつけろよ」
そう言って私の顔をじっと見つめてきた。

「顔にも傷はないわよ」
近くで顔をまじまじと見られてなんとも不愉快な気持ちになり、
「さあ帰って」と低い声を出した。

「ピアス・・・開けたんだな」

ああ、そうか。
これに気が付いたのか。

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