嘘の続きは
「私、最後の仕事に行くね。お姉ちゃんは明日の記者会見頑張って」

ニコリと笑顔を見せると、なぜか一瞬真紀の笑顔が歪んだ気がした。
でも、それはたぶん気のせい。だってすぐに真紀の顔はいつもの笑顔になっていたから。

真紀からありがとうの言葉と同時にハグをされた。

そして「真島さん、朋花をお願いします。今まで本当にありがとうございました」
とまるで何かの儀式のように丁寧な言葉遣いで真紀は私を抱いたままあのオトコに頭を下げた。

あの男は黙って頷いている。

最後の一回というのは真紀にとってこんなに重みのあるものだったのか。

真紀の言葉は今回のこの影武者作戦ということだけでなく、過去数年間に渡り自分の妹の世話をも真島さんにさせてしまったことに対する謝罪と感謝の言葉を吐いたのだろう。
それは非常に重くずしんと私の心にも響いてきた。

所属女優の家族のフォローなんて本来ならそこまでする必要のない仕事だったのかもしれない。今は距離を置いているけれど、過去の私はあの男に甘えすぎていた。
真紀は自身の結婚が目前に迫り、今までの自分の身の周りを見直し整理することにしたのだろう。私も真紀に倣うべきだ。

私も真紀の隣に並び、あのオトコに頭を下げる。
「姉ばかりでなく私もずいぶんとご迷惑をおかけしました。今までありがとうございました」

今日で本当に終わり。
このオトコ、真島さんとはもう関わらない。
真紀が芸能界にいる限り完全に接触しないことは無理だろうけれど、気持ちの上では完全に絶つつもりだ。

オトコは真顔で黙り、私を見つめるだけで真紀の時のように頷いてはくれなかった。
その冷たい瞳の中に浮かんでいるのは怒り、呆れ?何なのかわからない。

どうやら私には返事をする気もないらしい。
真紀との態度の差に胸がずきりと痛んだ。
< 43 / 163 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop