嘘の続きは
「そんな確認いらないわ。もうここでいいです」
私の口から出たのは自分の予想以上に低い声。
でも、もういい。このオトコにはもう何一つ取り繕う必要などない。

「そうですか」
口調は丁寧だけど、態度は真逆でオトコはいきなり私を押しのけて自らの胸元から鍵を取り出すと真紀の部屋の玄関ドアに差し込みドアを大きく開けたのだ。

私の拒絶を完全に無視した強引な態度に腹が立つけれど、ここのーー真紀の部屋の鍵を持ち歩いていることに驚きと共にああやっぱりと思う気持ちが湧き上がる。
二人の間にあるのは男女の関係なんじゃないのかと疑惑が膨らんでいる。

「さあ、早く入って」

諦めて開けられた扉の中に無言で入ると、センサーが働いて玄関ホールから廊下のライトが付いた。
辺りが明るくなりセキュリティの解除スイッチを押すと、背後に立つオトコがホッと息を吐いた気配が。

「ではお疲れさまでした。ーー明日の記者発表の時間は朝10時です」
そんな言葉とカツンというオトコの靴音を背中で聞いた。

ーー帰るのなら早く出て行って。

背中を向けハイヒールも脱がず立ったままでいる私の背後で玄関ドアが閉まっていく。

閉まる直前「おやすみ、朋花」と囁き声が聞こえた。
驚いて振り返るけれど、ドアは閉まりオトコももういない。


最後の最後で私の名前を言った。
朋花、と。

そんな言葉はいらないのに。

私の中の暗闇に溜まっていたあの感情が明るい場所に出てこようと蠢いてもがいているのを感じて涙がこぼれて止まらなかったーーー

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