嘘の続きは
試食会の会場は麻布にある丸山シェフのお店はアイボリーの塗り壁とワインレッドの窓枠が特徴的な都会的というよりも居心地の良さを追求しているソフトな印象のお店だった。彼のもつ系列店の中では1番広い店舗らしい。
私たちが到着した時には既に店内はかなりの人でにぎわっていた。
店内のあちこちにあるタブレット端末に各自食べた料理を5段階で評価し入力するというシステムになっている。
テーブルにはひと口大に切り分けられた色とりどりの料理が並んでいて、試食会というよりもビュッフェスタイルの食事会場のようだ。
お店に着いた途端、じゃあねーと沢田さんが宣言通り私たちから離れて行ってしまった。
「えっ、沢田さん本気で狩りに行くつもりなんですか?」
ここに来る途中のタクシーの中で沢田さんが東君にもその話をしていたけれど、どうやら東君は信じていなかったらしい。
狩りに出る沢田さんの後ろ姿を呆然と見送ってから私たちに確認してきたのだ。
「私たちも今朝聞いたところだからね、どうにも判断がつかないの」
「やっぱり何かあったんですかねぇ」
私と松下君は朝と同じように首をひねり、東君はため息をついた。
「だったらうちのヨメにくればいいと思いませんか?」と東さんが言い出して私は目を丸くした。
うちのヨメ?
「それ本気で言ってる?」
東君の本意が見えなくて隣に立つ背の高い東さんの顔を見上げた。
松下君も驚いたように東君の顔を見つめている。
「本気だって言ったらーー?」
東君が口角をキュッと持ち上げて笑顔を見せた。いや、目は笑ってない。
「本気なら私は反対しないけど、冗談半分ってことなら絶対にやめて」
東君は25才、沢田さんは38才だ。
沢田さんは本気でお相手を探すつもりらしいから東君にはからかい半分で邪魔をして欲しくない。