嘘の続きは
「・・・そんなにあの男がいいのか?」

「は?」

真島さんの口から洩れた言葉の意味がわからない。
あの男って丸山シェフ?

「何言ってるのかわからないけど」
私は真島さんに背を向け歩き出そうとした。

だってまだ何も食べてないもの。
一刻も早く戻りたい。

きゃっ
小さな悲鳴が私の口から洩れる。
いきなり手を引かれ私の背中に手が回されたと思ったら抱きしめられていた。

背の高いオトコのスーツの胸に顔を押し付けられていて鼻が痛いし、ぎゅっと締められて息苦しい。いきなり羽交い締めにされているのはなぜなのか。

「そんなにあの男がいいのか」
頭の上からさっきと同じ言葉が落ちてきた。

もしかして丸山シェフのことじゃない?
あの男って何なのか、誰のことなのかもわからない。

「あ、あの男って・・・」誰のこと?と声を出そうとするけれど、頭の後ろと背中を押さえ込まれていてうまく声が出せないし、そんなことより息苦しくてぎゅむーとか変な声が出てしまった。

離せとばかりに空いていた両手でオトコの背中を殴って抵抗をすると、一瞬私を締め上げていた力が緩み私は大きく息を吸い込んだ。

ああ、死ぬかと思った。

新鮮な空気が肺に入り当たり前に呼吸ができることの幸せを噛みしめた途端に私の後頭部に手が回されてあろうことか今度は口が塞がれた。

ん!
目を見開いて状況を確認する。

ーーー人工呼吸などではない。
私は真島さんとーーーキスをしていた。
< 72 / 163 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop