嘘の続きは
あれは10年ほど前だったか。

真紀は映画の撮影で1ヶ月の予定でシンガポールに滞在していた。
その頃、俺は後進育成のために若手マネージャーを真紀に付けていた。もちろんメインは俺だったが、1ヶ月間のロケに帯同するのは若手に任せ、俺はシンガポールと日本を行き来していたのだ。

撮影が残り二週間となった頃、運悪く監督はじめ助監督、カメラマンが揃って食中毒になるというハプニングがあり、撮影が4日間ストップすることになった。

真紀は飛び込んできた休暇に喜び、日本にいる俺にせっかくの休暇を妹の朋花と過ごしたいと告げてきた。

「お願い、朋花にこっちに来るように言って。あの子だって今は夏休みなんだしたまにはいいでしょ」

「いきなりシンガポールに呼びつけるのか?」

「パスポートさえあれば来られるじゃない。着替えも何も持たせなくていいから。全部こっちで準備するから。ね、お願い、真島さん。朋花を連れて来て」

どことなく切羽詰まったような真紀の声に俺は感じるものがあった。

わがままに聞こえるかもしれない。
でも、真紀は心底朋花に会いたがっているのだと思った。

慣れない環境での撮影に身も心も疲れているのだろう。
真紀は決して弱音を吐かないけれど。
妹の朋花に癒されたいのだ。

「わかった。なるべく早い便でそっちに連れて行くから。任せておけ」

そう言うと、「うん。ありがとう」と普段の真紀からは決して聞くことのないか細い声が返ってきた。
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