嘘の続きは
「私もこんな風にあの新婚夫婦のサプライズのきっかけを作るつもりじゃなかったのよ」

少し、沈んだ声を出した真紀に「わかってるよ」と返事をした。

最後に明日の映画祭で姫と朋花の二人がどう動く予定なのかを確認して真紀との電話を切った。

「真島さん、朋花が嫌がっても必ず近くで二人を守ってね」という真紀の言葉に胸がジワリと軋む。

朋花が嫌がっても…か。

そうだろうな、彼女はたぶん、俺が近付くのを嫌がるだろう。

オーナーシェフをしている友人のパーティーに行ったところ、偶然朋花に出会い、ちょっとした勘違いから腹を立てた俺は彼女に無理やりキスをしてしまったのだ。

アレは確かに酷かった。
自分でもそう思う。
おまけにキスした後の彼女に逃げられてそれっきり今日まで会っていない。

一度は手放す気になり彼女ををひどく傷つけて遠ざけたはずなのに。
朋花のことを忘れられずいつまでも心の中に留めていたのは自分だった。

大学卒業が決まった頃の朋花を拒否したのは真紀のためであり、朋花のためだった。
二十代半ばで中学生の真紀のマネージャーとなり、新人から有名女優と言われるほどになるまでやってきた。

だからいくら朋花が可愛くてもあそこでマネージャーと年の離れた女優の妹のスキャンダルは起こしたくなかった。

俺たちは年の差が開きすぎている。当時22才になったばかりの朋花とバツイチで37才の俺。
自分が真紀の足を引っ張るようなことなどできるわけがない。

中学生の真紀をこの道に入れて、彼女の将来の確かな道筋が見えるまでは自分のことは二の次だ。そう心に誓って仕事をしてきた俺に朋花を受け入れる選択はなかった。

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