嘘の続きは
「---真島専務、貧乏ゆすりってうつるからヤメテよ」
リムジンの後部座席から声がした。

「ああ、悪い。つい出てしまった」
助手席から大きく振り返って声の主であるLARGOのボーカルのユウキに謝る。

「真島さんがわかりやすくイラついてるなんて珍しいね」
ユウキの意味ありげな物言いはとりあえず無視してタカトに視線を向けた。

「姫から連絡はあった?」

「さっきも”今日は頑張って”なんてのんきなメールがありましたよ。今日お前は何してるんだと聞けば白々しく今日は真紀と真紀の妹とイベントに行くと答えが返ってきて。どこのイベントか聞けば、既読スルーかって程時間が空いてから”連れて行ってもらうだけだからよくわからないの”なんて明らかに返事に困っているって内容で」
タカトは片手でスマホをもてあそびながら苦笑している。

「自分の居場所について真紀から口止めされているのを素直に守っていて痛々しいですよ。果菜は自分が北海道にいると俺にバレてるとは思ってないし、SNSで自分たちのことが拡散されていることにも気が付いてない。危機感ゼロ」

「秋野真紀の悪戯に事務所全体が振り回されて、ホントに笑えない。果菜ちゃんの安全対策ってどうなってんの」

落ち着いているタカトよりもドラムスのヒロトの方が苛立っている。
ヒロトも昔から真紀の悪戯の被害者の一人だ。

「すまん。迷惑かけるな」

「真島さんも毎回巻き込まれてる側でしょうが」

「果菜のことだから、隠れてレッドカーペットの俺を見てるはずです。本人はこっそりと見てるつもりでも周りがほっといてくれるかどうかが問題ですね」

そうなんだ。心配しているのはまさしくそこだ。

「でもま、あんまり心配はしてないんです」タカトがふっと息を吐いた。

「果菜はなぜか本人にそのつもりがないのに気が付くと自分の周りに味方を作ってるんですよね」

ああそうだねと納得するようにユウキが頷いている。

「真紀の妹もいるし、果菜も少しは耐性がついてきてますから。それでも早々に身柄を確保して欲しいとは思ってますが」

そうなんだ。俺も一刻も早く二人の居場所を確認して確保したい。
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