秘密の出産が発覚したら、クールな御曹司に赤ちゃんごと愛されています
 ここは高級マンションなのでセキュリティも万全だし、私たちコンシェルジュもいるので秘密を厳守して協力だってする。こういう対応も全て仕事のうちだ。

「わかりました。あとは私が引き継ぎます」
「はい、お願いします」

 ふあ、と大きな欠伸が出そうになるのを堪えて、男性スタッフはロッカールームへと消えていった。
 その姿を見送ったあと、私はカウンターにあるパソコンでメールのチェックを始める。

 さて。今日は――

 今日一日にやらなければならないことを頭で整理して考えていると、急にコンシェルジュカウンターに誰かがやってきた。
 急いで顔を上げて、スマイルを作ろうと思ったのに――。目の前にいる人物を見て絶句してしまった。

「……どうしてお前がここにいるんだ?」

 聞き覚えのある低い声。
 すっきりとした清潔感のある黒髪、見覚えのある顔は年を重ねて精悍さが増している。

 かつては甘い眼差しで私を見ていた双眸は、今は鋭く突き刺さるようにこちらに向けられている。

 その姿を見ていると、現実なのか夢なのか分からなくなる。

 呼吸を忘れるくらい、じっと彼を見つめてしまった。
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