秘密の出産が発覚したら、クールな御曹司に赤ちゃんごと愛されています
「聞いてるのか? 椎名」
椎名友里。
事情があって、私の旧姓は椎名だ。その苗字で呼ばれて、ハッとする。
「えっ、あ……はい。申し訳ございません。わたくしは、こちらのコンシェルジュをしておりまして……」
「それは見れば分かる」
ぴしゃりと言い放たれ、冷たい言葉に怯んでしまう。
目の前にいる男性は、私の態度が気に食わないようでイラついている様子。
私も私で久しぶりの再会に動揺を隠せないでいる。
もう二度と会わないと思っていた相手で、しかもそれは樹里の父親の――
小野寺直樹だったのだ。
「俺はこのマンションに住んでいるんだ」
「え――」
小野寺なんていう住人はいなかったはず。もしいたのなら、このマンションから担当を外してもらっていた。
どういうことだろう?
「そう、だったんですね……。知らなくてごめんなさい」
「嫌がらせでわざとここにいるのかと思ったが、そうじゃないんだな」
こんなに素っ気なく話されることに慣れていなくて、彼との距離を感じて勝手に寂しさを感じている。こんなふうな態度を取られるのも無理はない。私たちはすでに数年前に別れているのだから。