秘密の出産が発覚したら、クールな御曹司に赤ちゃんごと愛されています

「いつもこの時間に勤務しているのか?」
「……はい、そうです」
「だから会わなかったんだな。俺は今日たまたま出張から帰ってきたところで、珍しくこの時間に帰宅した。いつもならもう出勤している時間だ」

 直樹の傍には大きなキャリーケースがあり、遠方か海外に数日行っていたであろう量の荷物だ。

「何号室ですか? お運びしましょうか……?」
「他人行儀に話すなよ。知らない間柄じゃないだろ。気に障る」
「す、すみません……」

 仕事モードに入っているから、つい敬語を使ってしまった。しまった、と急いで口元を押さえる。

「5201だ」
「え?」
「俺の部屋」

 5201と言ったら、このマンションの最上階だ。確か最上階の二部屋は、オフィス名義になっていたはず。だから直樹が住んでいることも気が付かなかったのか。

「来たかったら、来てくれてもいいけど」
「……結構です!」

 散々冷たい口調で話しかけてきたくせに、そんなことを言うなんてズルい。思いがけない言葉に過剰に反応してしまって頬が熱い。

 ああ、こんなところで元カレと再会してしまうなんて……と肩を落とす。

 ここのマンションのコンシェルジュに慣れてきて、遣り甲斐も充実感も味わっていたところなのに……異動願いを出さなければならないと考える。
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