秘密の出産が発覚したら、クールな御曹司に赤ちゃんごと愛されています
「ね、お願い。椎名さん」
顔の前で合掌して、何度も頼み込んでくる。
困惑して後ずさりしても、めげずに押し進んでくるから逃げ場がなくなってしまった。周りから注視されて、どうしていいか分からずにいると、小野寺くんに手を掴まれる。
「あ……っ」
初めて触れた男子の手。大きくて私の手をすっぽりと包んで温かい。
握られた手は自分の体の一部なのに、そうじゃないみたいな感覚がして、そこから熱がぶわっと広がる。
「椎名さん、お願い。俺、椎名さんがいいんだ」
何度も断るのに、何度もお願いされてしまって、断る手立てがなくなってくる。
その日は教室に逃げ帰ったけれど、その次の日も、その次の日もお願いされて、ついに私は折れてしまった。
「放課後、一時間だけなら……」
その約束で、私たちは高校三年生の夏の終わりから一緒に勉強をする仲になった。
勉強を教えてほしいと言う割に、彼は基礎をしっかり理解していて、私がやっているレベルの勉強も難なくこなしていた。
特進クラスの問題についてこられるのなら、なぜ普通クラスにいるのか不思議だ。
あとから分かったことだけど、小野寺くんはトップ10に入るくらいの成績の持ち主だったのだ。
私が教えなくても全然大丈夫じゃない?
そう思いながらも、一緒に過ごしている時間が楽しくて「やめましょう」とは言い出せない。
一緒に過ごしている時間は、勉強の話しかしていないのに楽しくてあっという間に過ぎていった。