秘密の出産が発覚したら、クールな御曹司に赤ちゃんごと愛されています
ただ彼女まで巻き込んでしまったらどうしようという迷いもある。

彼女も引き込まれてしまったら、被害者を増やすだけになってしまう。

「明日、そちらに取りに行くんで、今は結構です」

 少し苛立ちながら話す天野さんは、落ち着きのない様子で足を揺らしている。
予想外の訪問者に動揺しているように見えた。

『それがですね……。私共の都合で大変恐縮なのですが、ランドリールームの御依頼が殺到しており衣装が満杯でして、入りきらない状況になっております。なので、こうしてお引き取りをお願いに上がった次第です。このまま受領していただけたら助かるのですが……』

 なかなか食い下がらないコンシェルジュに業を煮やして、天野さんは大きくため息をついたあと、私のほうに顔を向けた。

「声を出したら、分かっているだろうな」

 低い声で念を押すので、こくこくと声を出さずに頷く。
チャンスがあれば逃げ出したいけれど、失敗したときのリスクを考えると怯んでしまう気持ちもある。

 天野さんは私をじっと見つめたあと、玄関のほうへ向かって歩いていった。
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