秘密の出産が発覚したら、クールな御曹司に赤ちゃんごと愛されています

小野寺くんは車道側を歩き、私は彼の右側を歩いている。

 静かな帰り道。黙ったまま彼の斜め後ろの姿を見て、頬が熱くなる。
見つからないように俯いて足元ばかり見つめているけど、ふと顔を上げると彼の顔がこちらに向いていた。

「椎名さんの家は、どの辺り?」
「えっ、と……駅から徒歩で十分くらいかな。ごめんね、遠くて」

「ううん。いいんだ。その方が」
「え?」
「何でもない」

 はっきりとした口調で話していたにもかかわらず、彼の言葉を聞き逃してしまった。
というよりは、言葉の意味が理解できなくて聞き直したという方が正しい。

 そのあともう一度言ってくれることはなく、よく分からないまま会話は終わってしまった。

 彼は遠い私の家までちゃんと送り届けてくれた。おんぼろのアパートを見て幻滅されるのではないかと思って、近くのマンションの前で「ここなの」と嘘をつく。

 ちっぽけな見栄。
こんな嘘、すぐにバレてしまうかもしれないのに。バレたら余計に恥をかくはずなのに、少しでもよく思われたいという気持ちが勝ってしまった。

「じゃあ、また。明日」
「うん、またね。バイバイ」

 手を振って、彼の後ろ姿を見送る。
 彼が見えなくなるまでずっと、その姿を目で追った。

――小野寺くん。

 心の中で彼の名前を呼ぶと、ふっと温かくなる。

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