秘密の出産が発覚したら、クールな御曹司に赤ちゃんごと愛されています
毎日の食べるものや、着る服でさえ満足に買えない。決して楽だと言えない生活だけど、朝から晩まで仕事を頑張っている母を知っていたから、不満に思うことはなかった。
そんな私と御曹司である彼が付き合うことになった。
釣り合うはずなんてないってわかっていた。声をかけられたときは、何かの間違いかと思った。それなのに……彼を拒むことができなかった。
人生で一度くらい、自分の気持ちに素直になってもいいんじゃないかって。
身の程知らずだと笑われてもいい。傷つくことになってもいいから、彼と一緒にいたい。
そう思って彼の胸に飛び込んだ。
若さゆえの勢いだったのかもしれない。
「ママ……」
背後から呼ばれて、ハッと我に返る。
振り返ると、寝ぼけまなこをこすりながら私のほうを見る樹里が立っていた。寝ぐせのついた柔らかな髪が、ぴょこんと跳ねている。
「樹里、おはよう」
私たちの住む家は、築三十年の1LDK。
六畳のキッチンダイニングと寝室だけの狭い部屋だ。そのダイニングルームにある木製のローテーブルの前には子ども用の椅子が置いてある。
樹里はそろそろとその前に行き、ちょこんと座った。
「……おなか、すいた」
「うん、そうだね。朝ごはんできてるから、歯磨きして」
「はーい」