秘密の出産が発覚したら、クールな御曹司に赤ちゃんごと愛されています
私たちが別れてから1カ月が経過した、5月の初め。
少しでいいから時間を作ってほしいと言われ、会うことになった。
何度も断っていたけど、このあたりで会ってきっぱり断ち切らないといけないと決断し、義父に来てもらうことにした。
待ち合わせの場所に現れた直樹は、隣に立つ松岡さんを怪訝そうな目で見つめる。
「友里……その人は?」
二人きりで話をするものだと思って来たから、驚いたのだろう。動揺を含む彼の声を聞いて私も声が震える。
「私、この人と結婚するの」
絞り出すような弱々しい声。口の中がカラカラで、うまく話せない。
椎名友里から松岡友里に変わる。それは紛れもない事実。
それは母の結婚で変わるのだけど、そんなこと彼にはわからないだろう。
松岡さんと私が結婚したことにして、松岡さんの子どもを産んだことにすれば、直樹は諦めると思ったのだ。
「そんな……」
「だから、もう私に連絡してこないで」
そのときのことを思い出して、古傷がズキズキと疼いている。直樹を傷つけたぶん、私も同じ傷を負った。
本当はずっと傍にいたいのに、それができない。その上嘘をついて傷つけた……。